「シングル直結アンプの実験」を行ったが、その過程で同じ回路定数のままで数種類の球を挿し換えてみた。
カソード電流が定電流回路により規定されているので、挿し換えた球の能力全てを引き出せるわけではないが、それなりに動作する。
挿し換えてみた球は1626、6L6、6V6、6F6、6GA4、6DG6GT等である。
ヒーター回路を工夫すれば数種類の球を挿し換えて使用できるコンパチブル・アンプが実現できそうである。
回路は「シングル直結アンプの実験」の1626で使用した回路とほぼ同じである。
カソードの定電流回路は1626をターゲットに20mAに設定してあるが、定電流回路のおかげで、球の特性によりカソード電圧が自動調整されるので、特にバイアスを変えなくても他の球へ挿し換えることができる。
本機で挿し換えてみた球。
右端の41は6K6相当のST管。使用する場合は変換ソケットが必要。
コンパチブル・アンプとするため、ヒーター電圧の6.3Vと12.6Vを切り替えるスイッチを設けた。
ヒーター・トランスは東栄のJ-631W(6.3V1A*2回路)としたので、トータル12.6Wまで使用できる。
前段の6AQ8が6.3V0.435Aであるので、出力段のヒーターは1本あたり、6.3V0.7825Aまたは12.6V0.565A以下とする必要がある。
出力段には6.3V管であれば、6V6(0.45A)、6F6(0.7A)、6GA4(0.75A)、6K6(0.4A)等がそのままで挿し換えることができる。
ただし、5極管やビーム管は3極管接続で使うので、出力段ソケットのプレート(3番ピン)とSG(4番ピン)を100オームの抵抗で接続しておく。
12.6V管では1626(0.25A)、12A6(0.15A)等が挿し換え可能である。メタル管である12A6の1番ピンは本来であれば、アースに落とす必要があるが、6GA4はグリッドが5番ピンの他、1番ピンもグリッドとなっているので、あえて落としていない。
そのため、12A6を使用する場合、不用意に触ると電撃を食らうおそれがある。
6GA4を使用しなければ、1番ピンは必ず、アースに落とす必要がある。
B電源は100V:120V 30VAの絶縁トランス(ノグチ PM-30WS)を使用して倍電圧整流後、FETのリップル・フィルターを通してあるだけで、左右チャンネルの振り分けは考慮していない。
また、前段に6AQ8を使用し、プレート電流を3mA程度流すことにより、B電源からプレート抵抗1本だけで供給し、デカップリング回路は省略した。
前段の6AQ8とは直結のため、出力段のカソード電圧は100V以上となるので、定電流用IC LM317の耐圧を補うためにトータルで4.5kオームの抵抗群を挿入してある。
ここに20mAが流れるのでこの抵抗の消費電力は1.8Wとなる。前段と後段をコンデンサーで分離すればこの抵抗は不要となるが、直結にするためには仕方のないところである。
せめてカソード電流を絞ることとし、「シングル直結アンプの実験」ではカソード電流は25mAであったが、今回は20mAにダイエットした。
B電源を470kオームと100kオームの抵抗で分圧してヒーター・バイアス用電圧を取り出している。この電圧は55V程度となるので、ヒーター回路に接続してH-k耐圧を補うバイアスとする。
電源用トランスは前述したように東栄J-631W、ノグチ PM-30WSであり、出力トランスは東栄T-1200を使用する。
トランスは全てカバーなしのバンド形であるため、東栄J-631W、ノグチ PM-30WSはシャーシー上のケース内に収納し、出力トランスはシャーシー内へ配置した。
ヒーター電圧切り換え用のスナップ・スイッチをシャーシー上に設けてある。
シャーシーはW250mm D180mm H60mmで、木製のサイドパネルで補強してある。穴明け後、黒色に塗装した。
ちなみにシャーシーはリード S-5、トランス・ケースにはタカチ MB-12S (W80mm H70mm D180mm)を使用した。
コンパチブル・アンプではあるが、メイン・ターゲットは1626であるので、ヒーター電圧切り替えスイッチを12.6Vとして測定した。
クリッピング・ポイントは0.5Wであり、DF=3.5となった。
周波数特性であるが、低域は低廉なトランスの割にはそこそこ延びていると思われるが、高域は10kHz過ぎから低下が始まっている。
歪率はWG、WSによる歪率の測定により測定した。
典型的なシングル・アンプの傾向を示している。
クロス・トーク特性はB電源を左右チャンネルで分離していないにも関わらず、20Hz-30kHzで-60dB、100Hz-10kHzでは-70dB以上と優秀である。
6GA4は国産の3極管であるが、製造が終了してかなり経つので、今となっては入手は困難だと思われる。筆者が購入したのも40年前である。
ヒーター電圧切り替えスイッチを6.3Vとして測定した。
比較のために1626のデータも表示してある。さすがに6GA4の方が余裕があり、クリッピング・ポイントは1.1Wまで延び、DF=6.1となった。
周波数特性であるが、1626と比較すると低域、高域の落ち込みが良くなっている。
NFB抵抗は300オームとしたが、この場合、1626では4.3dB、6GA4では7.3dBのNFBとなるので、特性が改善されたものと思われる。
歪率は1626と同じ傾向であるが、全体的に低下している。
クロス・トーク特性は1626よりも低域が改善されている。
12A6、6F6、6V6、41について測定してみた。
比較のために1626、6GA4のデータも表示してある。
出力的には6GA4が断トツで1Wオーバーが得られている。その他の球は0.5W程度である。
0.125Wで測定した周波数特性であるが、41が低域、高域の落ち込み一番、大きくなっている。
ここでも6GA4が秀逸である。
1kHzの歪率を示したが、0.4W以下では12A6が優秀である。
0.4Wを超えると、やはり出力的に余裕のある6GA4が有利となっている。
歪率が高いのは41、6F6であり、1626はそこそこであるが、6V6は中途半端な感じである。
知人宅にアンプと球を持ち込み、試聴してもらった。
やはり、6GA4の評価が高く、その次は1626であった。12A6は面白みがないという評価で一致した。
12A6 非常に優等生的な音、でも言い換えるとそつがないが面白みがない。
1626 音楽を聴く分には12A6よりも良いかも。
6GA4 音に厚みがあり、適度に面白みもあり、今回、試聴した中ではこれがNO1かな。
6F6 音が薄っぺらくてつまらない。低域も出てこない。
挿し換えてみた球のデータは下表のとおりである。
この表からは、カソードに挿入した定電流回路によりプレート-カソード間電圧(V)が変化し、バイアスが自動調整されていることがわかる。
ノンクリップ出力(W)は1kHzを入力して波形がクリップする寸前の値で、1kHz THD(%)はそのポイントでの歪みである。
入力電力(W)はB電源入力とヒーター電源入力の合計であるが、定電流回路によりどの球でもB電源入力は同じとなるので、ヒーター電力の違いを表している。
カソードに定電流回路を挿入したことにり、バイアスを調整することなく、いろいろな球をそのままで挿し換えられるコンパチブル・アンプが実現できた。
ところで筆者は普段、どの球を挿しているのかな? 正解は6GA4である。やはり、良い音で聴きたいものである。