USB-DAC KIT + 真空管バッファ・アンプの製作
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USB-DAC KIT

JAZZ CDをPCのHDDに取り込んで、外付けのUSB-DAC(EDIROL UA1-EX) でアナログに変換し、VT25/VT25A Stereo Amplifierで聴いている。
別の部屋でも同様なシステムで音楽を楽しみたいと考えるようになった。 ASUSのネットブックEee PC 901にEDIROL UA1-EXを接続し、秋月キットのICアンプと小型スピーカーで聴いてみた。 アンプがイマイチではあるが、それなりに楽しむことができた。

しかし、使う度にEDIROL UA1-EXを移動するのも面倒なので、USB-DACのキットを製作してみることにした。 ネット検索するといくつかの候補が挙がったが、その中で共立電子のUSBオーディオI/Fキットを購入し組み立てた。
このキットではDAC-ICにPCM2704、バッファ・アンプにOPA2604を使用している。

このキットではUSBバスの+5Vを使わないので、自前の電源を必要とする。 専用電源のキットもあったが、手持ちパーツを総動員してテスト用電源を作った。
必要とする電源は+3.3Vが2系統、OPアンプ用の+6V、-6Vである。最終的にはOPアンプを真空管バッファ・アンプに置き換える予定であるので、+6V、-6Vはかなりの手抜きバラックである。

シャーシーは30年以上前に製作したプリ・アンプの残骸である。

KIT vs UA1-EX

このバラックセットをEDIROL UA1-EXと比較してみた。PCにインストールしたefu氏のテスト信号発生ソフト WaveGeneで44.1kHz、16bitの サイン波を発生させ、USB-DACを経由してアナログ出力電圧を計測してみた。アナログ出力は50kオームでターミネートしてある。
WaveGeneを1kHz、0dBにセットするとEDIROL UA1-EXの出力は0.66V、キットでは1.83Vとなり、キットのゲインが8.8dB、高いことがわかった。
5Hzから20kHzまでの周波数特性であるが、キットの方が低域でも高域でも落ち込みが早く、
20Hzで-0.63dB、20kHzで-0.56dBとなった。
キットの回路図によるとPCM2704の出力とOPA2604の入力の間にHPF、OPA2604の出力にLPFが挿入されているのでそれによるものと思われる。
簡単な計測はできるが、音質をコメントできる能力はない。しかし、音大ピアノ科出身の家人の評によるとキットの方がピアノ本来の音がするとのことである。

真空管バッファ・アンプ

前々から試してみたいと思っていた真空管アンプがある。それはぺるけ氏の「情熱の真空管」で紹介されている差動ライン・プリ・アンプである。
6DJ8/E88CCを使用したこのアンプをバッファとしてUSB-DAC KITと組み合わせてみる。

電源トランスには、30年前に製作した真空管プリ・アンプからサルベージしたタンゴ ST-30Sを使いたいので、電源回路は若干、アレンジしてある。
ST-30Sの高圧巻き線はAC260Vもあるので、必要とするDC200Vを得るためには140V程度、ドロップさせる必要がある。そのため、リップル・フィルターFETのゲートにツェナー・ダイオードを挿入して簡易的な安定化電源とした。
さらに、2本の6DJ8/E88CCのヒーターを直列に接続して12Vで点灯させるが、こちらもトランスの巻き線がAC15Vと高めなので3端子レギュレーターを挿入してある。 その他、USB-DAC KIT用の3.3VもST-30Sの6.3V端子から供給する。
リップル・フィルターのFETと3端子レギュレーターはいずれも数Wの損失があるのでヒートシンクに装着してある。

OPA2604 vs 6DJ8/E88CC

本機にはTELEFUNKENブランドのE88CCを使用している。

バラックの状態ではあるが、6DJ8/E88CCバッファ・アンプをUSB-KITと接続してみた。OPA2604を外し、ピン3とピン5から信号を取り出し、6DJ8/E88CCのグリッド回路へ接続した。USB-KIT側は100kオーム抵抗でシャントされているので、音量調整ボリウムは省いてある。

WaveGeneを1kHz、0dBにセットすると6DJ8/E88CCバッファ・アンプの出力は1.3Vとなり、EDIROL UA1-EXよりもゲインが6.0dB高くなった。6DJ8/E88CCバッファ・アンプ自体のゲインは約2倍であった。

周波数特性であるが、落ち込みが低域側も高域側もOPA2604より改善されている。

6DJ8/E88CCバッファ・アンプ単体の特性

上記の周波数特性はPCで発生させたデジタル信号をDACでアナログに変換し、バッファ・アンプを通したオーバーオールの特性を計測したが、6DJ8/E88CCバッファ・アンプ単体の特性も計測してみた。
入力0.3V一定とし、出力を50kオームの抵抗でターミネートしその両端の電圧を計測した。1kHzにおけるゲインは0.62V/0.30V=2.07倍となった。
低周波発振器がとても古くて20Hz-200kHzまでしか測定できていないが、全体の傾向は「情熱の真空管」に掲載されているデータと似ていたので一安心である。残留雑音は0.15mVであった。

HPF、LPF

USB-DAC KITと6DJ8/E88CCバッファ・アンプとの接続は、OPA2604を外し、ピン3とピン5から信号を取り出しただけである。
バラックの状態での試聴時に、少しではあるが音にざらつきを感じた。オリジナルのUSB-DAC KITではOPA2604の出力側にLPFが構成されているが、真空管バッファ・アンプでは省かれているので、それがざらつき感の原因かもしれない。
USB-DAC KIT基板上のパーツを外すのも大変なので、外部回路で何とかならないかシミュレーターで検討してみた。
その結果、6DJ8/E88CCのグリッドとアース間に数百pFのコンデンサーを挿入すると、グリッドに接続されいる3.3kオームの抵抗とでLPFを構成できることが解った。
部品採り用の30年前に製作した真空管プリ・アンプに、270pFのスチロール・コンデンサーが使われていたので、それを6DJ8/E88CCのグリッドとアース間に接続してみた。
実機で周波数特性を測定すると20kHzではほんのちょっぴり、ゲインが下がっていた。ただし、270pFでは少し大きすぎると思われる。
試聴すると、ざらつき感が解消されている。ただし、コンデンサーの挿入による結果なのか、エージングが進んだ結果なのかは不明である。
USB-DAC KIT基板上にDCカット用0.1uFが並列に配置されているが、この値を大きくすると低域特性が改善されるが、手をつけ始めるときりがなくなりそうなので、今後の課題である。

まとめ

当初は音量調整と入力セレクターを設けて、ライン・アンプの機能を持たせるつもりでいた。しかし、よく考えてみると音源はPCしかないので、ライン・アンプとして使うことがない。結局、真空管バッファ・アンプ付きのUSB-DACだけの機能に限定することにした。
そうであれば、前面パネルには電源スイッチとパイロット・ランプだけで事足りるが、 ケースは30年前に製作した真空管プリの再利用なので、昔の穴が開いている。 きれいに穴を塞ぐスキルもないので、元のアルミ製パネルに木製の化粧板を両面テープで貼り付けた。加工の関係でLEDパイロット・ランプだけを前面パネル面に装着し、電源スイッチは裏面パネルに移し替えた。

追補

本機の低域の落ち込みは、USB-DAC KITのカップリング・コンデンサーの容量不足が原因である。
基板を外さないで、カップリング・コンデンサーを追加できるか検討してみた。
その結果、写真のような方法で追加することができた。追加したのは部品箱から出てきたフィルム系と思われる1uFのコンデンサーである。
写真の赤丸で示した、R9とICソケットのピン3、R11とICソケットのピン5の間にコンデンサーを挿入する。抵抗側は半田付けするがICソケット側はコンデンサーのリード線を差し込んだだけなので、簡単に入れ替えることができる。
音質にこだわるならば、元々付いていたC10、C11、C26、C27を切り取ってから、カップリング・コンデンサーを入れ替れることになる。 気に入ったコンデンサーが見つかったらICソケット側も半田付けしてしまう。

下図の赤線(6DJ8+1uF)がカップリング・コンデンサーとして1uFを追加(合計1.2uF)した周波数特性である。低域はEDIROL UA1-EXと遜色なくなった。

追補その2

秋月のUSB-DAC KITを組み立てた折、出力のノイズを計測したところ、無信号時で3mVもあった。
本機もこの秋月のUSB-DAC KITと同じPCM2704を使用しているので、アナログ出力を10kオーで終端し計測したところ、やはり、無信号時で3mVとなった。
PCから44.1kHz16bit 1kHzサイン波を出力してオシロで観測したが、輝線がシャープでないことから、かなり高い周波数成分を有していることも分かった。
秋月のUSB-DAC KITはバス・パワーで給電されているので、USBケーブルを外すことはできないが、本機は自前電源であるので、USBケーブルを外したところ、0.2mVに低減された。

上記はUSBケーブルのピン接続であるが、Vbus配線にPC由来の電源ノイズが重畳され、それがDACに入り込んで、ノイズの原因となっている可能性もあるが、本機は自前電源であるので、1番ピンのVbusが無くても動作すると思われる。

それを確かめるために、Vbus配線のないUSBケーブルを作ってみた。
ダイソーの100円USBケーブルを切断してA/Bのプラグ部分だけとし、3本の1.5D2V同軸ケーブルでD-、D+、GNDだけを接続したものである。
この改造USBケーブルでPCと本機を接続してノイズを計測してみたが、残念ながら無信号時で3mVと変化なしであった。
そうなるとノイズはDAC-ICから出力されていることになり、真空管バッファ・アンプ前でカットする必要がある。

自前電源でもDACからのノイズが電源ライン経由で流出している可能性もあるので、DAC基板の近くにフェライト・ビーズFB-801を挿入してみた。
この結果であるが、ノイズが半分以下の1.2mVとなった。

本機でも3.3kオームの抵抗と270pFのコンデンサーによるCRタイプのLPFを組み込んであるが、これをチューニングしてみることにした。
LPFを形成するコンデンサーの容量を増やして、周波数特性とノイズの関係を計測してみた。
下図は620pFまで増やしてみたが、高域の落ち込みは同じで、ノイズは0.64mVまで低減され、 試聴結果も音の分解能が良くなったように感じられた。
歪率も計測したので、下記に示す。

追補その3

いつも参考にしている「ぺるけ氏」のサイトの「AKI.DACキット製作ガイド」にローパスフィルタ例が記載されているが、このLPFを本機に応用してみる。
下図のLPF UNITが今回、追加した部分である。
LPF UNITが入ったので、6DJ8のグリッドにある3.3kオームの抵抗と680pFのコンデンサーで構成されたCRタイプのLPFは外してある。
本機ではDAC出力とバッファ・アンプ間は計1.2uFのコンデンサーで結合されているが、これに33uFの電解コンデンサーを並列に接続して容量も増やしてみた。

下図はWGから48kHz16bit0dBFSの信号を入力して計測したDACの周波数特性であるが、結合コンデンサーの容量を増やしたので、低域は5Hzまでフラットになっている。

下図はLPF UNIT単体の周波数特性である。

追補その4

ラインアウトプット・トランスのタムラA-8713を入手したので、バッファ・アンプに装着してみる。
タムラA-8713は1:2次側インピーダンス 20kCT(5ksplit):600CT(150split)、1次最大直流電流DC10mAx2であるので、20kオームのプレート抵抗の代わりにトランスを挿入した。
電圧調整のため、20kオーム抵抗をパラレルにしてトランスの中点に挿入してあるので、動作点はほぼ同じである。
ケース内部を整理してトランスを配置するスペースを確保した。
当初、トランス2次側には終端抵抗を接続していなかったが、周波数特性がカマボコ型となってしまったので、620オームの抵抗を挿入したところ、フラットになった。

以下に周波数特性と歪率特性を示す。
ゲインは約3倍となり、抵抗負荷の場合の2倍の5割増しとなった。
歪率は抵抗負荷よりも悪化している。
試聴の結果であるが、特性からも予想されるが低域がダメで、いつもチェックに使っているピアノ・トリオの演奏ではベースの音が聞こえてこない。

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Last Update 11/Jan/2013 by mac