離れて暮らす家族のために真空管アンプを製作することになった。
離れたところで使われるとなると古典球の直結アンプではメンテが心配なので、手持ちのある6CA7/EL34のコンデンサー・カップリングのシングル・アンプとする。
6CA7/EL34シングルはCZ-501-D Drive Single-ended Amplifier の実験でデータを採ってあるが、5極管ドライブでは周波数特性がイマイチであるのでドライブ回路を見直すことにする。
データを採るためにバラックのモノ・アンプを製作した。
ドライブ回路は12AT7のSRPPとする。
クリッピング・ポイントは3W強である。45や2A3では過大入力となっても、それなりにじわじわと出力が増加するが、6CA7/EL34の3極管接続では頭打ちになった。
SRPPにすると低インピーダンス・ドライブとなるので、周波数特性も高域が伸びてくる。これであれば、Non-NFBでも問題なさそうである。NFB=4dBとすると高域はさらに伸びてくる。
12AT7ではなくて6BQ7や6DJ8のSRPPも面白そうである。
試験アンプで使用した出力トランスはタンゴのU-808であるが、このトランスは30年以上も前に購入したものであり、1個だけしか持っていない。
ところでU-808はISOブランドとなったが、未だに製造されており、もう1個を新規購入し、ステレオ・アンプ用に使うことはできるが、30年の歳の差が気になる。
ノグチトランスのサイトでPMF-10WSを見つけたので、これを使ってみることにした。ノグチトランスの電源トランスは
45/2A3 Single Stereo Amplifierでも使っているが、出力トランスは初めてである。
やはり値段相応でU-808に比べると小ぶりである。
シャーシーは裁断済みのアルミ・パネルをLアングルで接合したものである。
メイン・パネルは400mm(W)*200mm(D)*2mm(t)、前後のサイド・パネルは200mm(W)*50mm(D)*2mm(t)、写真にはないが、左右のサイド・パネルは木製で400mm(W)*60mm(D)*16mm(t)である。
アルミ・パネルは黒色、木製部はニスで塗装してある。
使用した電源トランス LUX-4A48は2A3PP用なので、ヒーター回路は2.5V5A、5V2A、6.3V3Aとなっている。6.3V3AをEL34に使うと12AT7用の6.3V0.6Aが不足してしまう。
そのため、2.5V5Aと5V2Aを直列に接続し7.5Vとし、抵抗(3オーム5W)でドロップさせると6.15Vの電圧が得られた。
12AT7をSRPPで使うとH-K耐圧が不足するので、B電源を抵抗で
分割した46Vでバイアスしている。
シャーシーが細長い形状なので、このような配置になってしまった。
使用した真空管は、EL34がジーメンス、12AT7が日立の通測用である。
シャーシー内部はかなり空間があるので、発熱に対しては余裕がある。
このアンプのヒーター電力、プレート入力等の合計は70W近くにもなるが、それがほぼ全て熱になってしまう。
信号系統の抵抗だけは手持ちがあったソリッド抵抗を使った。
カップリング用コンデンサーはスプラグのオレンジドロップ、カソードバイアス用の電解コンデンサーはNichiconのMUSEミューズである。
6dBのNFBをかけてある。オシロ・スコープで観測したクリッピング・ポイントは3W弱となった。
PMF-10WSのNon NFBでは高域が10kHzですでに低下を始めており、高域でのアバレもある。
6dBのNFBをかけて、やっとU-808のNon NFB特性と良い勝負となった。言い換えればU-808の特性がかなり良いことになる。
WG、WSによる歪率の測定で本機の歪率を測定した。
0.5W以下の歪率はかなり低いが1Wでは他のアンプと比べても多めである。EL34のカソード抵抗を変えたり、ドライブを12AT7から12AX7に換えたり、NFBを増やしてみたが、傾向的には変化がなかった。
普段はVT25/VT25A Stereo Amplifierで聴くことが多い。このアンプは中高域が充実しているので、それと比べると中高域はやはり見劣りしてしまう。
でも、そのかわり低域が伸びているが、筆者の好みではやはりVT25/VT25Aかな。
離れて暮らす家族のために作ったアンプであるが、状況が変わりアンプが戻ってきた。
手元にあれば、直結アンプも面白いので改造してみた。
改造内容は出力段の動作の見直し、前段との直結、信号ループの最短化である。
出力段動作点は300V65mA、負荷3.5オームから250V35mA、負荷5kオームに変更し、かなりのダイエットとなった。
これにより、負荷が軽くなりB電圧が上昇したので、前段と直結することができ、カソード抵抗も3kオームと高くなったので、B電源とカソード間を100uFで接続して信号ループを最短化した。
回路図は以下のとおりである。
動作が軽くなったので、ノン・クリップ出力は2Wに低下している。
DF=5.2、NFB=5.3dBである。
低域は直結でもコンデンサー結合でも変わらないが、高域はコンデンサー結合の方がきれいである。
低出力時の歪みはコンデンサー結合の方がよいが、1W時では直結の方が良くなっている。
試聴の結果であるが、改造前を聴き込まなかったので、印象だけであるが、改造後の方が低域が豊かになり、中高域も薄ペらっさが弱くなった感じがする。
コンデンサー結合のままで、出力段に定電流回路を挿入し信号ループを最短化しても面白かったかもしれない。