CQ出版社の「Interface 2014年9月号」にRaspberry Piと組み合わせるIrBerryDACが紹介されていた。
筆者もRaspberry PiはUSB-DACと組み合わせて使用していたが、最近はIntel NUC等を導入したので、お蔵入りの状態であった。
このIrBerryDACはRaspberry Piと組み合わせると192kHz24BITをサポートするとのこと、筆者の所有するDACは96kHz24BIT止まりであるので導入してみることにした。
このRaspberry Pi用DAC基板 IrBerryDACはキットとして頒布されているので、早速、基板とパーツのセットを申し込んだ。
使用されているDAC-ICはTI PCM5102Aである。
到着した基板とパーツセットである。
詳細な組み立てマニュアル等は作者であるたかじんさんのサイトにある。
パーツ取り付けが終了した基板、DAC-ICやチップ部品は全て実装済みなのでリード・タイプのCRやソケット等の半田付けだけでOKである。
DAC基板と組み合わせるため、Raspberry Piに8ピン・ソケットを装着する必要がある。
バラックであるが既存のケースを再利用して組み込んでみた。
DAC基板にCR1段のLPF回路が組み込まれているが、これを外付けにした。
このDACのアナログ出力にライン・トランスを組み合わせて平衡出力としたいが、その場合、LPF回路の定数を調整するのに外付けの方が便利である。
アナログの出力端子はXLRを使用しているが当然、不平衡であり、XLR-RCA変換コネクターを装着する。
電源(5V)はDACを経由してRaspberry Piに供給されるが、これをリニア電源にするのも面白そうである。
DAC基板と合体したRaspberry Piを動作させるためのソフトとして
volumioを使用する。
このvolumioは、筆者も少しいじったことのあるraspyfiの後継ソフトとのことであるが、raspyfiは開発が中止となっている。
volumioのサイトからRaspberry Pi用のVolumio1.4PI.zipをダウンロードし、解凍するとVolumio1.4PI.imgが現れる。
これをSDカードにインストールするわけであるが、インストールについてはここを参考にしてもらいたい。
Volumio1.4PI.imgが書き込まれたSDカードをRaspberry Piに装着し、DHCP環境下にあるLANケーブルを接続して電源(5V)を投入する。
Volumioではデフォルトでwebサーバーが動作しているので、WindowsPC等のブラウザーで
http://volumio
とタイプすれば接続できる。
また、DHCPサーバーで割り当てられるIPが分かっていれば、そのIPでも接続できるし、SSHでもアクセスできる。
SSHの場合
id:pi pass:raspberry
であるが、直接 root でアクセスする場合は
id:root pass:volumio
となる。
左図がブラウザーから
http://volumio
とタイプしてアクセスしたページである。
とりあえず、右上のMENUからNETWORKを選択して以下のように設定した。
DHCP disable(static)
IP address 192.168.0.88
Netmask 255.255.255.0
Gateway 192.168.0.1
Primary DNS 192.168.0.1
次にMENUからSYSTEMと進み、Activate I2S driverとしてHifiberryを選択する。
そうすると以下が現れるので、MENU→Turn offとしてリブートする。
volumioではweb上でNASのマウントが出来る。
MENU→Library→NAS mountsと進み、以下のデータを入力して自作NASをマウントした。
Source name Music
IP address 192.168.0.95
Remote directory Music
Username root
Password ●●●●●
IPを固定しておけば、GMPCや他のMPDクライアントでも本機にアクセスすることは可能である。
最初に必要な設定だけをvolumioのweb画面で行い、その後は使い慣れたGMPCでコントロールしている。
Volumioはweb上でいろいろと設定できるが、SSHでアクセスするともっと詳細な設定が可能である。
rootでアクセスできるので
id:root
pass:volumio
で接続する。
以下のコマンドで設定画面が現れる。
root@volumio:~# raspi-config
筆者は以下を設定した。
[2 Change User Password]
Passwordを変更できる。
[4 Internationalisation Options]
Timezoneが変更できるのでAsia→Tokyoと設定する。
IrBerryDAC基板にはPICも搭載されており、赤外線リモコンでPLAY、PAUSE、STOP等の
コントロールが出来るようになっている。
しかし、筆者はPCやタブレットからGMPC等のMPDクライアントでコントロールしているのでリモコン機能は不要である。
試しにPICを外してもDACとして動作しているようなので、作者のたかじんさんに問い合わせたところ、
「PICなしでも問題なく動作します。」との回答を頂いた。
さらに、
「PCM5102のデジタル・フィルタを切り替えるときは、PICの9pinの
部分に3.3Vを入れると低レイテンシ・フィルタ、未接続でノーマル・フィルタが選択されます。」とフィルターの切り替え方法についても教えて頂いた。
回路図で確認するとPICソケットの14pinがVDD(+3.3V)であるので、14pinと9pinをジャンパーすれば、低レイテンシ・フィルタに切り替わり、D1(LED)が点灯するはずである。
写真のように14pinと9pinをジャンパーするとD1(LED)が点灯した。
フィルター切り替えのためにジャンパー線を伸ばしてスイッチを付けることは出来そうであるが、そのようにするならば、PICを装着してリモコンで切り替えた方がスマートであろう。
今回は切り替え方法の確認だけである。
PCにインストールしたefu氏のテスト信号発生ソフト WaveGeneでいろいろな周波数、いろいろなレベルの192kHz24BITの サイン波を発生させ、waveファイルとしてNASに格納した。
それを再生しDACのアナログ出力電圧を計測してみた。
1kHz0dBFSを再生すると出力電圧は2.04Vで、残留ノイズは0.3mVとなった。
周波数特性では超低域が若干、持ち上がっているが、非常にフラットであり、-20dBでもその傾向は変わらない。
高域は30kHzあたりから落ち込みが始まっているが、PCM5102Aのマニュアルによると外付けしたLPFは153kHzで-3dBの特性となっているので、その影響とは考えにくい。
192kHz24BITを再生した時のDAC本体が持つ特性なのかもしれない。
歪率特性では100Hz、1kHz、10kHzがきれいに揃っており、筆者の所有しているDACの中では一番、低歪率である。
筆者の常用アンプは平衡型であるので、DAC基板のアナログ出力に600:600オームのライン・トランスを追加して出力の平衡化を試みた。
ただ、PCM5102Aのマニュアルによるとアナログ出力の負荷は1kオームとなっており、600:600オームのライン・トランスでは負荷が重すぎてドライブできないかもしれない。
外付けしたLPFのRに適当なRをパラレル接続して特性を計測して最適な抵抗値を探ってみた。
LPFのRの合成値が50オームと150オームで周波数特性を計測してみた。
192kHz24BITの1kHz0dBFSを再生して電圧を計測すると50オームで1.78V、150オームで1.58Vとなり、ライン・トランスによる損失がある。
超低域はトランスの挿入により、低下しているが、高域もオリジナルの不平衡出力時よりは落ち込みの始まりが早くなっている。
また、150オームで-20dBFSの特性を計測してみたが、超低域の低下は解消されている。
歪率特性は50オームと150オームを比較すると、わずかに150オームの方が低歪率であるが、グラフに示した不平衡の1kHzとは比べものにならないほど悪化している。
また、高出力時に歪率が悪化しており、やはり600:600オームのライン・トランスをドライブするのには、かなり無理があるようである。
外付けしたLPFのRを100オーム、Cを0.01uFとし、600:600オームのライン・トランスの2次側負荷抵抗を1.2kオームにして再度、計測してみた。
192kHz24BITの1kHz0dBFSを再生して電圧を計測すると1.82Vとなり、周波数特性の傾向は低域は上記と同じ傾向であるが、高域の特性は不平衡の場合と比べても遜色がない。
歪率特性は-10dBまでは不平衡の特性と良い勝負であるが、さすがに0dBでは悪化している。
CRの定数を見直した結果、これだけ特性が良くなったが、
600:600オームのライン・トランスをドライブするのは邪道なのかもしれない。
本機の5V電源には通常、下記写真右側の5V3Aのスイッチング電源を使用している。
この電源をスイッチング方式ではないリニア方式の電源に換えるとどうなるか実験してみた。
実験に使用したリニア電源(下記写真左側)は、スイッチング方式ではない10V1AのACアダプターのDC出力を、レギュレータIC LM350Tを採用した秋月の安定化電源キットに入力したものである。
スイッチング電源を使用した場合、DACのアナログ出力に電子電圧計を接続して計測した残留ノイズは300mVであったが、リニア電源に換えると100mVに低減した。
試聴の結果であるが、リニア電源に換えると、よりまろやかになった感じがした。
まともな192kHz24BITwavの楽曲ファイルを持っていなかったので、e-onkyoから手持ちCDと同じJAZZの楽曲ファイルをダウンロードした。
ただし、この楽曲ファイルは50年前の録音だったので、最新DSD録音から192kHz24BITwavに変換した楽曲ファイルも併せてダウンロードした。
オリジナルの不平衡出力を171A/71A シングル直結アンプに接続して、リッピングした44.1kHz16BITと聞き比べてみると、やはり192kHzの方がなめらかで情報量が多いと感じた。
最新録音の192kHz24BITwavを再生すると、筆者のチープなシステムから高音質の音が出てきたのには驚愕した。
次にライン・トランスを追加した平衡出力に平衡型常用アンプを接続して試聴してみた。
歪率特性が良くない割には、結構まともに再生できたが、最初に聞いた最新録音の192kHz24BITwavほどの感激はなかった。
やはり、このIrBerryDACはオリジナルの不平衡出力で使い、平衡出力が必要な場合は、入力インピーダンスの高い不平衡-平衡コンバーターを別に組み合わせるのが良さそうである。
このIrBerryDACをOSがどのように認識しているのかは下記のコマントで分かる。
$ cat /proc/asound/cards
0 [sndrpihifiberry]: snd_rpi_hifiber - snd_rpi_hifiberry_dac
snd_rpi_hifiberry_dac
DACデバイスは以下のように認識されていた。
$ cat /proc/asound/card0/pcm0p/info
card: 0
device: 0
subdevice: 0
stream: PLAYBACK
id: HifiBerry DAC HiFi pcm5102a-hifi-0
name:
subname: subdevice #0
class: 0
subclass: 0
subdevices_count: 1
subdevices_avail:
次は、192kHz24BIT楽曲ファイルを再生した時のDACデバイスの情報である。
$ cat /proc/asound/card0/pcm0p/sub0/hw_params
access: RW_INTERLEAVED
format: S32_LE
subformat: STD
channels: 2
rate: 192000 (192000/1)
period_size: 16384
buffer_size: 65536
こちらは、44.1kHz16BIT楽曲ファイルを再生した時のDACデバイスの情報である。
access: RW_INTERLEAVED
format: S32_LE
subformat: STD
channels: 2
rate: 44100 (44100/1)
period_size: 4410
buffer_size: 22050
最後にOSとMPDのバージョンは以下のとおりである。
$ uname -a
Linux volumio 3.10.36+ #662 PREEMPT Fri Apr 4 18:31:16 BST 2014 armv6l GNU/Linux
$ mpd -V
Music Player Daemon 0.18.10
Raspberry Piはもう1台あり、DIYINHKの
384kHz/32Bit PCM5102A DAC, I2S input, Ultra Low Noise Regulatorいうキットと組み合わせてみました。
詳細は「Raspberry Pi+PCM5102A DAC」 でどうぞ。