メタル管を使用したARC5タイプ短波受信機の製作
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カタログ

アメリカのサープラス・ショップから2003年のカタログ届いた。カタログにARC-5(米軍用航空機搭載無線機)のリプレース用パーツが掲載されているのを見つけた。パーツはR-27用のコイルパック、IFT、BFOコイルであった。R-27は受信範囲が6-9.1MHzでIFが2.83MHzのシングル・スーパー受信機である。もちろん、真空管式でメタル管6本を使用した高1中2構成となっている。
ネット検索の結果、幸運なことにあるサイトからARC-5のテクニカル・マニュアルを無料ダウンロードすることができた。R-27は可変容量が62pFのバリコンを使い6-9.1MHzを受信するようになっている。バリコンは同一容量3連のもので、240pFのパティング・コンデンサーを使用して上側ヘテロダインとなっている。バリコンは昨年のハムフェアーでR-26(受信範囲3-6MHz)用の可変容量が147pFのものを入手してあるので、このバリコンとR-27用コイルパックを組み合わせるとどうなるかシミュレートしてみた。
マニュアルにはコイル類のインダクタンスについては明記されていなかったので、IF、バリコン容量、受信範囲、パティング・コンデンサーから推定した。アンテナ側が7uH、局発が5uHとして表計算ソフトを使用してトラッキング状況をシミュレートしてみた。その結果トラッキング誤差はあるものの受信範囲5-10MHzで使えそうなことが判った。バリコンは減速機構付きの周波数直線タイプなので、1回転200-300kHz程度の可変が得られる。これではSSB/CWのチューンはちょっと無理だが、AMであれば問題ない。R-27の構成、回路を拝借してレプリカの真空管式短波放送用受信機を作ることにした。
カタログにはR-27で使われているメタル管も掲載されていたので、コイル類とともに通販の注文を出した。
   
通販したIFT、BFO、コイルパックとR-26用の3連バリコン

予備試験

コイル、IFT、真空管が到着したので予備試験を開始した。混合管12K8を使った発振回路をバラックで作り周波数カウンターで測定してみた。受信範囲はおおよそ5MHz-10MHzとなることが判った。ANT、RFのコイルとバリコンを接続してグリッドディップメーターで共振周波数を測定したらトラッキングもある程度はとれることが判った。
その後、実際の短波放送を受信するため、RF増幅段、IFT1個、ダイオードの検波回路を追加した。発振回路に周波数カウンターを接続し、周波数の判っている放送局+IFにセットし、RF段のトリマーを調整した。6MHz台と9MHz台の放送局で調整したがトラッキングはとれていた。

今度はIFのチェックである。IFTをもう1個追加し、RF段のアンプをIFアンプに転用した。マニュアルによるとR-27のIF帯域は-6dBで13kc、-60dBで56kcとかなり広い。実際にラジオたんぱを受信してみると6.055MHzと6.115MHzが混信してしまう。この受信機R-27が使用されたのは1940年代で軍用機に搭載されていたわけであるが、ペアになる送信機も自励発振であり、送受信機とも周波数の安定度はあまり良くない。そのため、IF帯域を広めに設定しておいた方が、通信の確実性という点では理にかなっていると思われる。IFも当時としては高い2.83MHzに設定されているのは選択度よりもイメージ混信の防止を狙っていると思われる。
初段にIFTをもう1個追加し、1pFで結合して集中型にしてみた。しかし、トリマを廻しても同調がうまくとれない。IFTを分解してみたところ、トリマーへの半田付けがテンプラになっているのを見つけた。半田付けをやり直したらOKとなった。ついでに、IFTの構造を子細に点検したところ、R-27の回路図とどうも勝手が違っている。復同調になっているはずが単同調である。ARC-5の前のバージョンにSCR-274があり、R-27に相当するBC-455という受信機があるが、どうやら購入したIFTはこのBC-455のもののようである。その当時、ARC-5とSCR-274は混用されたとのことである。集中型にしたら、ラジオたんぱの第1、第2放送は分離できるようになった。初段を集中型にするとIF2段増幅するためにはIFTは最低でも4個必要である。しかし、購入したIFTは3個だけであったので、IFTの追加オーダーを出した。IFTは1個5ドルである。秋葉原では大昔の国産IFTが2本1組数千円で売られていることを考えると数本買っても安いものである。

追加注文したIFTが到着したので次段も集中型にしてみた。小容量のコンデンサーの手持ちがなかったので、それぞれのIFTからリード線を出し、それを数回よじってコンデンサーがわりとした。容量は多分数pF程度だと思われる。測定方法はSG代わりの秋月DDS発振器を混合管12K8のグリッドに注入し、AM検波用ダイオードの出力電圧をマルチメーターで読むというかなりラフな方法である。次段も集中型にしたおかげでスカート特性はかなり改善された。受信機は高1中2形式にする予定なので、IFTの配置は2+2+2とし、結合用コンデンサーをトリマーにすれば、IFTのトリマーと組み合わせて帯域を調整できそうである。

局発の特性、そこそこ直線性がとれている

構成、回路図

今回はARC5のレプリカの製作であるので、メタル管を使用した高1中2構成となる。回路はオリジナルを踏襲するが、電源関係、周波数表示はMOSFETやPICを使用して近代化してある。その他、ツェナーダイオードを使ったスクリーン電源安定化、音量調整用ボリウム追加、Sメーター回路追加等の変更があるが、基本回路は真空管式高1中2受信機である。

回路図 jpgファイル 約140kB

回路図 pngファイル 約300kB

ARC-5のテクニカル・マニュアルは下記サイトから無料でダウンロードできます。その他の軍用無線機のテクニカル・マニュアルも揃っています。
Military Boatanchor Manuals By KG7BZ

電源

電源は安定化したB電源、同じく安定化したDC12V、ヒーター用のAC12.6Vの3系統とした。周波数安定化のため、DC12Vをミキ サー管の12K8とBFO用の12SR7のヒーターに供給した。 電源用のトランスは秋葉原ラジオセンターの春日変圧器で230V60mA、6.3V1.5A*2のものを購入した。B電源は 230V60mAを全波整流して安定化する。
安定化回路はJA9TTT加藤OMが開発されたMOSFETを使用した真空管用電源のコピーである。 MOSFETは秋月で購入した2SK2847を使用した。2SK2847はフルモールドパッケージであるので、ヒートシンクにつける際、絶縁を気にしなくて済むので具合がよい。LM317Tには小さな放熱板をつけてあるが、こちらは絶縁する必要がある。電圧調整用の抵抗は手持ちの関係で50kにしたら215V出力となった。

 

BFO

BFOは12SR7によるプレート同調型で発振させ、小容量のコンデンサーで検波回路に注入している。当初、オリジナルに忠実に回路を構成したが、動作させてみると引き込み現象らしきものにより、発振周波数が安定せず、うまくCWが復調できない。試しに受信機をAMモードとし、秋月DDSを応用したSGもどきから2.83MHzを注入するときれいなトーンでCW/SSBが復調できた。
12SR7のプレートからBFO信号を取り出していたが、これをグリッドに変更してみた。こちらの方がオリジナルよりもかなり良くなったが、実用レベルにはほど遠い。次に、2SK125で簡単なバッファアンプを作り、挿入したら使えるようになった。もっとも初めからSSB/CWの受信はあまり期待していないが、やはりBFO回路はちゃんと動作させたいものである。

S-METER

オリジナルには当然Sメーターはついていないが、本機では装備することにした。テスターで信号の強弱により電圧の変わる箇所を調べたら、RF、IFの各カソード電圧がそれに該当した。RFと1stIFはカソード回路にゲイン 調整用のボリウムがあり、Sメーター回路向きではないので、2ndIFのカソード電圧を使うことにした。
ここの電 圧は13V程度なので、ツェナーダイオードで約85Vに安定化してあるスクリーン用電圧を抵抗とボリウムで分割し て0点調整用の基準電圧とし、カソード電圧との差でラジケーターを振らすことにした。

受信周波数の表示

局発の発振周波数からIFを引いたものが受信周波数となるのでそれが周波数カウンターで表示できると非常に便利である。JK1XKP貝原OMのサイトにぴったりのものがあった。これはPICを使った周波数カウンターでIF周波数のオフセット機能付きであるので、局発の周波数を計測して受信周波数を表示できることになる。
ハード関係は若干のアレンジをして組み上げた。プリスケーラーと機能スイッチの省略、プリアンプを2SK241に変更した。LEDは5連のものが入手できなかったので普通のものを使用し、LED部分と本体の2枚に分けて汎用の蛇の目基板に組み立てた。
オリジナルは16F84であったが後継機種の16F84Aでもオリジナルの実行ファイルで問題なく動作している。詳細な解説付きのソースファイルも公開されているので容易にカスタマイズできる。オフセット動作時の0.01KHz台の表示、オフセット周波数の事前設定等を施して使用している。  12K8のプレートから2pFを介してカウンターと接続した。


周波数表示ユニット、回路図はこちら

調整

本機の主な調整箇所はトラッキングと集中型IFTの結合トリマである。トラッキングの調整はバリコン付属のトリマで行う。しかし、周波数表示はPICを使ったカウンターで済ませてあるので、ダイアルの目盛りを受信周波数に合わせる必要はない。とりあえず、30mバンドまで受信したいので、周波数の上限が10.5MHz程度になるように局発用のトリマで調整した。あとはRF段のトリマを周波数範囲の中間あたりで最大感度になるようにした。本機のコイルパックはインダクタンスの調整がないのでこれしかやりようがない。 オリジナルのARC5は、例えばHFであればR-26の3-6MHz、R-27の6-9MHzというように受信範囲が狭いので コイルのインダクタンスを可変してまでトラッキングを追い込む必要がないようである。
集中型のIFTは初段と中段の5pFトリマを最小にし、検波段の5pFトリマは中間位置にセットした。これは全体のゲインと帯域をいろいろと組み合わせて調整した結果である。

オリジナルのIFTは初段、中間段、検波段と3種類あるが、初段用と検波段用しか入手できなかった。IFTケースのトップが黒色が初段用、銀色が検波段用である。初段は初段用2個、中段は初段用+検波段用、検波段は検波段用2個の組み合わせとした。
左上部はPICを使用した周波数表示用のカウンターである。
使用真空管はバリコン右が12A6(AF)、中段左から12K8(MIX)、12SK7(RF)、12SR7(DET,CW-OSC)、下段が12SK7(1stIF)、12SF7(2ndIF)の6本である。

中央右下の横長ケースがコイルパック、その右のケースがBFOコイルである。左側が電源部で上部がB電源安定化回路、下部がDC12V安定化回路である。MOSFETやレギュレータ用ICはサイドパネルを放熱板にしている。

二葉の写真はクリックすると拡大画像となります。

まとめ

B電源に安定化回路を組み込んだのがかなり効いている。この回路はリップルフィルター効果もあるので、真空管に付き物のハム音は全く感じられない。試しに7MHzを聞いてみる。ダイアル1回転で約300kHz可変なのでかなりクリチカルなチューニングが必要であるが、なんとかCW/SSBが受信できた。しかし、送信機と組み合わせてQRVするのはちょっと無理だろう。IFの帯域が広くアバレも少ないので短波放送を良い音で聞くというコンセプトで使うのが最適であろう。局発もそこそこ安定している。十分暖めておくと1時間で数十Hz程度の変動なので短波放送受信であれば全く問題ない。実用的な受信範囲は4.8MHz-10.3MHzとなった。
つまみは中央がメイン、下段左からRF GAIN、AF GAIN、POWER-MODE

クリックすると拡大画像となります。

それでもQSO

本機は短波放送受信用として製作したが、7MHzや10MHzのCWを聴いていると実際にQSOしたくなった。その前にスタンバイ回路を作った。スタンバイ時にはRFと1stIFの12SK7のカソードに50kオームの抵抗が挿入されるようにリレーで切り替えた。送信時にも受信機は低感度で生きており送信音が聞こえるのでサイドトーン代わりになる。
807を使用したCW送信機があるのでそれと組み合わせた。599BKスタイルの多い10MHzでトライすることにした。信号の強い局をつかまえてキャリプレートをとるが、悲しいかな本機の帯域が広すぎて上下2箇所でビートが聞こえてしまう。通常、BFO周波数はフィルターの帯域の外側に設定するが、本機は帯域が十数KHzもあるのでBFOは帯域の真ん中に設定してある。そんなわけでCW/USB/LSBの切り替えはチューニング位置の変更で可能である。このあたりはダイレクトコンバージョン受信機と同じ原理である。何となく下側の方が本物らしかったのでこちらでキャリブレートをとり、呼んでみると応答があり、初QSO成立となった。しかし、QSOしようと思えば何とか使えるというだけであり、やはり短波放送受信用である。

R-27/ARC-5 vs BC-455/SCR-274

ARC-5もSCR-274も米軍用無線機システムで、第二次大戦中から戦後にかけて航空機に搭載され、対航空機間、対地上間の連絡に使用された。システムは受信機、送信機、変調機、コントローラー等の器材で構成され、これらの総称がARC-5やSCR-274となる。SCR-274の後継システムがARC-5であり、両システムには共通性があるので混在使用も可能であったようである。
受信周波数6-9.1MHzの受信機はARC-5ではR-27、SCR-274ではBC-455と呼ばれており、外観や構成パーツはほとんど同じである。しかし、回路図を眺めると違いがあるのがわかる。BC-455の使用真空管は12SK7(RF)-12K8(MIX)-12SK7(1stIF)-12SK7(2ndIF)-12SR7(DET,CW-OSC)-12A6(AF)であるが、R-27では2ndIFが12SF7に変更となっている。12SF7はあまりなじみのない球であるが、リモートカットオフ5極管に検波用の2極管が組み合わされたちょっと変わった複合管構成となっている。
回路図を眺めると何故このような球を使ったのかが判ってくる。BC-455ではAGC(AVC)回路はなく、ゲイン調整は12SK7(RF)と12SK7(1stIF)のカソードに接続される50kオームのボリウムで行うようになっている。R-27でのゲイン調整も同じであるが、それに加えてかなり凝ったAGC(AVC)を施してある。12SF7の5極管部プレートから100pFを介して同2極管部に接続し整流したものを、AGC(AVC)電圧として12SK7(RF)と12SK7(1stIF)に供給している。さらに検波用の12SR7で作られたAGC(AVC)電圧は12SF7(2ndIF)へ供給してあり、2重のAGC(AVC)ループを持っている。これは想像であるが、やはりAGC(AVC)のないBC-455がかなり使いづらかったのではないだろうか。その他、前述したようにIFTの構造にも若干違いがあり、本機ではBC-455用を使用したが、回路はR-27の方で製作した。AGC(AVC)がかかっているのでこれを利用してオリジナルにないS-メーターも装備することができた。

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Last Update 1/Jan/2006 by mac