「無線機の自作」その2
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開発用プラットフォーム

貴田電子設計のDDS-VFOのキットを使ったシンプルな無線機をバラックで製作した。この無線機はVFOとAFセクションはそれなりにまともなので、これを無線機開発用のプラットフォームにすることにした。
このプラットフォームにフロント・エンド、IFセクション、送信部他を組み合わせるといろいろなバンドの無線機に変身できそうである。
VFOは貴田電子設計の同様なキットでマスタークロック180MHzのAD9851を使用したもの方が応用範囲が広くなるが、とりあえず、手持ちのマスタークロック50MHzのAD9834バージョンとした。

ケース

バラック・セットのままでもかまわないが、使い勝手が悪いので出来合のシャーシー(W200mm*H40mm*D150mm)とアルミ・パネル(W250mm*H150mm)を組み合わせた昔風のケースを作った。穴明け後、パネルだけは黒色に塗装したが、アルミ無垢の方がノスタルジックな雰囲気が出たかもしれない。

基本部の組み込み

AFセクションVFOポスト・アンプコントロール部はバラック・セットで試験済みであるので、シャーシーに合わせた基板に再構成した。VFOはLCDをバックライト付きに換えて本体と分離し、ファンクション・スイッチは「SEL」と「RIT」のみをパネル面から操作できるようにした。ローターリー・エンコーダーはバラックセットでは機械式だったが、岩通アイセックEC202A100A(100P/R)に換えてみた。 こちらの方が操作フィーリングは格段に良いが、早く回転させるとパルスの取りこぼしが目立つようになってしまった。
パネル中段、左からフロント・エンド同調用バリコン、RIT、SEL、VFO同調、下段は左から電源スイッチ、PHONE、KEY、予備スイッチ、AFゲイン。

とりあえず7MHzCWトランシーバー

基本部だけでは無線機にならないのでバラック・セットで使用したIFセクション、フロント・エンドをとりあえず組み込んだ。送信部は以前、製作した2SC2028PPのリニア・アンプとし、4W出力となるように調整した。
シャーシーのパネル寄り左からVFOポスト・アンプ、DDS-VFO、フロント・エンドのバリコン
手前左から2SC2028PPのリニア・アンプ、プラスチック・ケースに巻いたフロント・エンドのコイル。とりあえずバージョンなのでガム・テープが大活躍である。
シャーシー背面は左から予備用BNC端子、ACC、SP、FUSE。

全体回路図 all.gif 17kB 

中央パネル寄りがコントロール部、その右がAFセクション、この2つはそれなりに作ったが、シャーシー手前のIFセクションは作り直すことになるのでバラック・バージョンのままである。

本当は自作機でQRVしたことのない3.5MHzCWトランシーバーにする予定であった。しかし、自宅のロング・ワイヤーとアンテナ・チューナーでは3.5MHzに同調させることが出来なかったので、残念ながらあきらめた。3.5MHz対応はフロント・エンドのコイルを巻足し、送信部のLPFを用意するだけで簡単にできる。
1.9MHzの場合はVFO本体の出力が足りないので、VFOポスト・アンプの調整が必要となる。また、10MHzでは送信は問題ないが受信がダメである。というのは使用中のIFセクションが11.2735MHzなので、10.130MHzを受信する場合、局発(VFO)は11.2735-10.130MHz=1.1435MHzとなるが1.9MHzの場合と同じで、VFOポスト・アンプを調整しないとパワー不足で受信DBMを駆動することができない。
ということでとりあえず、7MHzCWトランシーバーにまとめた。この構成で足りないものはサイド・トーンだけである。
改めて現用機と比較すると受信音が素直なことがわかる。RFセクションはIFに2SK241が1段だけで、あとはAFセクションしかない。AGCもかかっていないし、フィルターもCWには広すぎるSSB用であるので、当たり前なのかもしれない。
出力は4WあるのでQSOは問題なくできる。ただし、受信ピッチを800Hz前後に合わせる必要がある。受信ピッチが800Hzの場合、送信周波数が相手側と合致するようにDDS-VFOを設定しているためである。 SSB用のフィルターなので、その時の気分によってピッチがずれても受信できるが、その状態でいくら呼んでも応答がないことになる。特に 相手側が狭帯域のフィルターを入れているとなおさらである。 好みのピッチにする場合は、一旦、800Hz前後に合わせてRITで調整することになる。

250Hz帯域フィルター

ジャンク箱から昔のヤエス用250Hz帯域フィルターが出てきたので、これを装着してみた。ただし、キャリア用の水晶がなく、アルト電子に特注したら4k円以上もかかってしまった。この値段ならばDDSキットをもう一つ購入してキャリア用にしてもよかったかもしれない。
以前のIFは11.2735MHzだったので、DDS-VFOの設定を変更する。貴田電子設計のDDS-VFOは 本体だけで全ての設定ができるので、このような時は非常に便利である。今回のIFは3179.3kHzなので、7000.0kHz受信時にはDDS-VFOは3820.7kHzを発振、送信時にはそのまま7000.0kHzを発振するように設定した。今回は10MHz帯でも使えるので2バンド・トランシーバーとなった。
帯域が狭くなったのでロスが増えて、ゲインがさらに不足気味となったが、さすがに250Hz、各局がきれいに分離している。SSB用のフィルター使用時のように相手局とのピッチ合わせも不要で、聞こえた周波数でそのまま送信すればQSOができる。 心配していたリギングもなく、音調もきれいである。ただし、このようなフィルターに慣れてしまうと混信の中から目的の信号を拾い上げるなんてスキルは退化してしまうかも。

セラロック・フィルターとサイド・トーン

上述したヤエス用250Hz帯域フィルターは「真空管トランシーバーの改造」へ転用したので、本機のIFセクションがなくなってしまった。本機は昨年の所属クラブの文化祭で「無線機の自作」と題して講演を行った際、製作例として紹介した無線機の発展バージョンなので、今年の文化祭に出品してその後の状況を紹介したいと思っている。このままでは、単なる残骸なので、再度、IFセクションを移植して無線機としてまとめてみることにした。
以前の11.2735MHzのIFでは二番煎じなので「真空管トランシーバーの改造」で取り外したセラロック・フィルターを移植することにした。このフィルターはセラロックを使用したBFOの発振周波数がずれるようになったのが、改造するきっかけになったのであるが、改めて計測するとBFOの発振周波数に特に問題はない。どうやら元の無線機では真空管の発熱の影響を受けていたようである。本機は固体化されているので発熱の影響はほとんどないので、移植することにした。
セラロック・フィルターの入出力インピーダンスは数十オームになるので、入力側はDBMと直結し、出力側は455kHzIFTでステップ・アップし、2SK241で1段増幅し、455kHzIFTでステップ・ダウンし、リング検波という構成にした。DDSVFOは下側ヘテロダインに設定したので、1.9MHz〜10MHzまでの無線機となるが、アンテナ・コイルの同調範囲が7MHz〜10MHzであるのとLPFが10MHzなので、7MHz、10MHzの出力4Wの2バンド・CWトランシーバーとなった。
もう一つ足りない機能がサイド・トーンであるので、筆者定番のタイマーIC555を使用した回路を付加した。
このセラロック・フィルターの帯域は1kHzであるので、250Hzフィルターほどの切れはないが、素直な音調で非常に聞きやすい。IFは1段しかないが、特にゲイン不足という感じはしない。強信号の場合はAGCが欲しくなるが、その場合はAFゲインを絞って調整すれば良い。

右サイドパネルに取り付けられているのがサイド・トーン回路である。下右側にセラロックを使用した5素子フィルター、その左のセラロックがBFO用である。上中がコントロール回路、その右がAF回路である。

アンプ部のトラブル・シューティング

本機をクラブの公開運用で実際に使用してデモンストレーションすることにした。しかし、キーダウンとするとどういうわけかサイド・トーンが「ピーギャー」と発振してしまう。その内、発振は収まったが、パワーが出なくなってしまった。
公開運用直前に自宅で動作確認した時には問題なかったので、輸送中のトラブルか別のアンテナを接続したことに起因しているのかもしれない。ただし受信は全く問題ないので送信系のトラブルである。
トラブル・シューティングの結果、アンプ部の2SC2028がショート・モードで逝ってしまっていたことが判った。2SC2028を交換し、バイアス調整しようとしたが、コレクター電流が不安定なので、ベース・アース間に10オームの抵抗を挿入したら、ようやく安定するようになった。
当初、この抵抗は挿入していなかったが、たまたま、それなりに動作していただけのことだったようである。ベースに10オームの抵抗を挿入した結果、ゲインが3dB低下し、出力が2Wに減少した。

このプロジェクトは多分これでおしまいである。最終的な全体回路図は以下のとおりである。

全体回路図

おしまいにならなかったその後の顛末は「無線機の自作」その3でご覧ください。

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Last Updated 22/Sep/2011 by mac