GRC-109は受信機、送信機、電源、アクセサリー等を含んだ米軍用無線機システムの総称である。GRC-109の前身のRS-1は1950年代から使われ始め、後継のGRC-109Aは1970代まで使われたようである。今回紹介するのはその内の受信機R-1004/GRC-109とペアとなる送信機T-784/GRC-109である。電源装置は残念ながら所有していないが、簡単に自作できるのでその方法も紹介したいと思う。
マニュアルには各種の過酷な条件下で使用される75 milesまでのCW
通信用であると記載されている。特殊部隊等で使われたためスパイラジオの名称もあるようである。送信機は水晶制御の2球CW送信機、受信機は電池管使用の6球シングルスーパーで1960年代に無線を始めた筆者には非常にノスタルジアを感じさせるものである。
この無線機は1990年代始めにアメリカのサープラスショップから入手したものであるが、残念ながら現在ではカタログ落ちしている。
GRC-109 Manual TM 11-5820-474-14 (pdf 4MB)
a. Radio Transmitter T-784/GRC-109
Frequency range, 3 to 22 mc:
Band 1 ......................................3.0 to 6.0 mc.
Band 2 ......................................6.0 to 10.0 mc.
Band 3 ...................................... 10.0 to 17.0 mc.
Band 4 ......................................17.0 to 22.0 mc.
Number of tubes ......................2.
Type of transmission Cw.
Frequency control .....................Crystal.
Distance range .........................Approximately 75miles1 (121 kilometers).
Power requirements .................450 volts dc at 100 ma,and 6.3 volts ac or dc
at 1.2 amp.
Power output .............................10 to 15 w, dependingon frequency.
Antenna ...................................Single, horizontal-wire,25 to 75 feet long,
depending on
frequency.
1Range will vary considerably according to frequency,
terrain, and atmospheric conditions.
b. Radio Receiver R-1004/GRC-109
Receiver type ............................Superheterodyne.
Number of tubes ......................6.
Frequency range, 3 to 24 mc:
Band 1 ......................................3.0 to 6.0 mc.
Band 2 ......................................6.0 to 12 mc.
Band 3 ......................................12 to 24 mc.
Types of signals ........................Am., cw, and mcw.
received.
Sensitivity ................................5 uv for 10-db signalto-
noise ratio.
Intermediate frequency 455 kc.
If bandwidth .............................. 9 kc (6 db down).
Fixed-frequency operation.- Crystal used in local
oscillator.
Power input ..............................1.3 to 1.5 volts dc
at 300 ma, and 90 to
108 volts dc at 20
ma.
2Separate transmitting and receiving antennas may
improve operation, particularly at lower frequencies.
マニュアルにある運用方法のイラストである。送信機、受信機、電源を机代わりの箱の上に配置し、ロングワイヤーアンテナを接続している。ヘッドフォーンで受信し、送信機内蔵の電鍵で送信している。
受信機はアルミダイキャストのがっしりしたケースに収められている。ケースの寸法はW22cm*D14cm*H14.5cmで重量は3.8kgもある。ケースの蓋にはパッキングが施され、4本のねじでケースに止めらられており、防水機能もしっかりしている。
ケースの蓋を外し受信機パネルが水平の状態でオペレートするように作られている。パネル面にはTUNING、BEAT OSC、GAIN、RANGEのつまみとANT、PHONES、CRYTAL OSCの端子と電源ケーブルが配置されている。
同調はスプレッドがなく、例えば7.0-7.1mcの100kcがノブ1/4回転しかない。回路構成は電池管6本を使用した高1中2となっている。
ケースから受信機本体を引き出すためにはパネル面のビスを20本も抜く必要がある。もちろん、パネル裏にはゴムのパッキンが装着されている。真空管が載っているサブシャーシーはシールド板で囲われている。
本体は非常にコンパクトに作られている。横向きの3連バリコンは周波数直線型で周波数比は1:2となっている。左側のサブシャーシーがRF段とMIX段でシャーシー内に3バンド分のコイルと切り替えロータリースイッチが収納されている。ロータリースイッチも横向きに収納されており、ギャーによりシャフトを90度変換している。右側のサブシャーシーがIF段、BFO、AFである。
サブシャーシー内部の様子である。内部も非常にコンパクトでパーツ交換は至難の業である。
RF段の1T4はレイセオン、MIX段の1L6はシルバニアである。その他はIF段が1T4が2本、BFOが1T4、AFは1U5である。これらの真空管はアメリカから通販したままである。
R-1004/GRC-109回路図 jpg 155kB
R-1004/GRC-109回路図 png 232kB
ケース寸法は受信機R-1004/GRC-109と同じであるが、重量は若干軽めの3.2kgである。電源ケーブルのコネクター部はフックに収納して蓋を取り付けるようになっている。
パネル面にはEXITER、PWR.AMP、ANT.LOADの3つのつまみとバンド切り替えがある。端子は送信アンテナ、受信アンテナ、外部電鍵があり、その他として2種類の水晶ソケット、Burst Coder GRA-71 (高速キーイング装置)用コネクター、内蔵電鍵、同調指示用のランプが位置されている。中央にはチューニング用のチャートが貼り付けられている。
内蔵電鍵はつまみがフラットなタイプのものである。3.2kgもある送信機本体が台座がわりなので安定性はある。外部電鍵用の端子もあるので別の電鍵を接続することも可能である。内蔵電鍵のすぐそばにはBurst Coder GRA-71 (高速キーイング装置)
を接続するコネクターも配置されている。
送信機の使用真空管は発振6AC7、終段2E26である。この写真には2E26が見えるが、その反対側に発振段の6AC7が配置されている。エアーダックスコイルが使われているのが判る。終段はパイマッチ回路となっている。
発振段の6AC7の配置状況である。サブシャーシー右側は発振段のコイル他が配置されている。受信機に比べるとさすがに内部には余裕がある。
T-784/GRC-109回路図 jpg 200kB
T-784/GRC-109回路図 png 164kB
GRC-109にはPP-2685/GRC-109とPP-2684/GRC-109の2種類の専用電源が用意されており、1990年代初めのサープラスショップのカタログにも電源が掲載されていた。当時、船便の郵便小包の重量制限が22ポンドで送受信機だけでリミットになってしまい、電源の購入をあきらめた。別送という手もあったので、今思えば購入しておけばよかったと後悔している。
ただし、電源装置自体は簡単なので手持ちのパーツを使って自作した。受信機で必要とする電源は105V20mA、1.5V300mA、送信機では450V100mA、6.3V1.2Aであるが、送信機は別に450Vでなくてもパワーは低下するが、300V程度でも大丈夫である。
電源トランスはメーカー不明のP-120Bという型番のものを使った。多分、30年以上も前に製造されたトランスであろう。高圧は280V120mA、ヒーターは6.3Vの巻き線が3つある。
280Vを整流して送信機用にし、ドロップ抵抗と105V定電圧管で受信機用の105Vを作る。電池管フィラメント用1.5VはLM-317Tで作った。その他、アクセサリー用のDC9Vも6.3V巻き線2つを直列にして整流した後、9VレギュレータICで作り、送受信アンテナ切り替えリレーも内蔵した。
電源パネルは送信機用ソケット、受信機用ソケット、アンテナ端子*3、アクセサリー電源、FUSE、電源スイッチを配置してある。
電源回路図
電源装置も用意できたので送受信機のチェックをしてみる。受信機はアンテナ端子に数mのビニール線を接続し、ヘッドフォーンをフォーン端子に接続し電源ONとするとすぐにサーというノイズが聞こえてきた。電池管なのでウォームアップの時間が短く、すぐに動作する。ダイアルを廻すと短波放送が受信できた。
7mcにセットしてBFOをONにする。CWが聞こえてきたが、調整しようとダイアルつまみを廻すとどこかへ行ってしまった。100kcがノブ1/4回転しかないので無理からぬことである。SSBも何とか聞こえてきたが、こちらもかなり注意して同調ダイアルを調整する必要がある。ただし、BFOを切ってAMの短波放送を聞く分には快調である。
受信機には水晶発振子を装着できるようになっている。これは局発を水晶制御にして特定の周波数を安定良く受信するためである。水晶発振子を装着して同調ダイアルを発振周波数の上下455kcにセットするとノイズが増えて感度が上がる。一つの水晶発振子に対して
上下2箇所の周波数を受信することができる。
手持ちの3530kc水晶で送信機の動作確認をしてみる。電源を接続しアンテナ端子にはパワー計を接続する。
スイッチオンでエキサイターのネオンランプが点灯し、高圧が印可されたことが判る。2逓倍した7060kcでチューンするのでチャートから7mcの各コントロールの目盛りを読む。
エキサイターを調整するとネオンランプが明るくなるポイントがある。次は2E26のプレート側のチューンである。こちらもネオンランプが明るくなり始めると、パワー計が振り始めて約10Wを指示した。最後はロードチューンである。指示用の電球が一番明るくなるように調整する。この電球には明るさを調整できる覆いがついている。送信機の入力は320V80mAであった。これは発振段、終段込みの電力である。
キーダウンしないとパワーがでない。キーイングは発振段の6AC7のカソードと終段の2E26のカソードを同時にON-OFFしている。
受信機もスイッチを入れて送信機の音をモニターしてみる。ちよっとチャピーな感じがあるがとりあえず使えそうである。
CWバンドに入る水晶が入手できればオペレーションが可能である。ただし、受信機のIFがワイドで同調ダイアルが微調できないので、受信はかなりつらいものになる。
筆者はミズホのVFO-5を7MHz用に改造したものを使用してオペレーションした経験がある。本体を改造したくなかったので、VFOは送信機の水晶発振子端子を利用して入力した。
このシステムで数局交信したが、はっきり言って苦痛以外の何ものでもなかった。
ただし、送信機自体は出力が10Wあるのでもう少しまともな受信機と組み合わせればそこそこ使えると思われる。
フィラメント用として1.5V乾電池、B電源用として006Pを10本程度直列にしたものを用意すれば、受信機はポータブル運用が出来る。ただし、受信機本体が3.8kgもあり、電池を含めると5kg弱にもなるので、あくまでもやる気があればの話である。