最初から看板に偽りありで恐縮であるが、真空管を使用したトランシーバーが正解である。トランシープ操作用DDSVFOを試験中、30m/40m Transverterと高一中二受信機のメカフィル以降をバラックで組み合わせてみたら、なかなかのフィーリングであり、これらをまともに組み合わせたら面白いと思ったのが本機製作のきっかけである。幸いに、真空管関係のパーツは手持ちがあるし、スクラッチから製作しなくても改造元となる機材もある。当然、局発にはトランシープ操作用DDSVFOを使用することになるので、受信部はIFが455kHzのシングルスーパー、送信部はDDSVFOで直接、送信周波数を得ることになる。ターゲットとなるバンドは7MHzと10MHzでCW専用である。
真空管は不良在庫になりつつあるメタル管を使おうかとも思ったが、メタル管を使うとなるとそれなりの大きさのケースを用意する必要がある。シャックを見渡したら数年前に作った30m真空管受信機が目に付いた。これを改造元とすれば面倒なケース加工なしで製作できそうである。このケース、さすがにメタル管では小さすぎるのでMT管で構成してみる。
ケースを利用することにした30m真空管受信機
真空管をどこに使用するかというと、受信ではRF段、IF段、AF段、送信では終段あたりである。ケースに余裕があればこれらを全て真空管で作ってもよいが、残念ながらそうもいかない。部分毎に製作して余裕があれば、残りも真空管、なければ半導体でというスタンスで行くことにしよう。
とりあえず、真空管RFアンプ+ミキサーを作り、455kHzのIF出力を高一中二受信機のメカフィルへ入力してみよう。
局発はトランシープ操作用DDSVFOを使用する。本機ではアッパーヘテロダインとしたので、局発は表示周波数+IFとなる。送信時には表示周波数をそのまま発振するようにプログラムされている。
DDSVFO_PICコントロール回路図 PNGファイル 5kB
PIC サンプルプログラム(バイナリー)sampleup.obj 6kB 右クリックでダウンロード。
上記、DDSVFO_PICコントロール回路図において、本サンプルプログラムで焼き込んだPICを装着すると、下記条件のDDSVFOとなる。詳細は筆者()まで。
スタート表示周波数 | 7MHz | |
IF周波数 | 455KHz | |
受信時発振周波数 | 表示周波数+455KHz | |
送信時発振周波数 | =表示周波数 | |
ステップ周波数切り替え | 10Hz/100Hz/50kHz | |
PICプログラマーConfig設定 | FOSC | HS |
WDTE | Disable | |
PWRTE | Enable | |
CP | Disable |
真空管RFアンプ+ダイオードDBMは以前試したことがあるが、例えば6BA6+6BE6と比べると数十dB、利得が低くなり、少ない段数で受信部を構成する場合、どうしても感度不足となり易い。そうかといって6BE6を使うのも癪なので、双三極管を使用したMIXERを試してみた。手持ちの真空管を探すと12AT7が出てきたのでこれを使用する。
6BZ6+12AT7の構成として、高一中二受信機のメカフィル以降と組み合わせてみたが、比較機のTS-530と比べても遜色なかった。
コイル類はトロイダルコアに巻いてある。100pFのバリコンと組み合わせて7MHzと10MHzで同調するようにインダクタンスを決定する。、コアの種類と大きさにより異なるが、30数ターン程度で必要とする6uH程度になった。アンテナコイルの1次側は50オームに合わせるようにするとせいぜい2ターンでOKである。プレート側のコイルは10数ターンとするが、ハイインピーダンスを狙って巻きすぎると、グリッド側に帰還がかかって発振してしまうので注意が必要である。
左がアンテナコイル、右がRFコイル
この状態では真空管は6ZB6と12AT7のみである。シャーシー中央がDDSVFO、右奥がB電源用トランス、右手前がヒーターとDC12V用の12V1.2Aトランス。
IFTはトランジスター用を無理矢理使用している。150Vをかけているので絶縁耐力が心配である。バイパス用のコンデンサーはもちろん250V耐圧のものである。同じことをやる場合、自己責任で対処してもらいたい。
IFアンプは定番の6BA6の2段増幅である。IFTにはインピーダンス調整用の抵抗を入れてある。検波はリング回路とし、AGCはIFT2段目のプレートから取り出し、FETアンプで増幅した後、倍電圧整流した。プレートとの結合コンデンサーの容量でAGCレベルを調整する。
このセクションは生プリント基板をアースグラウンドとした方法で作り、シャーシーへは垂直に取り付けてある。IFT類は基板の切れ端を瞬間接着剤で貼り付けたランドを利用して取り付けてある。
BFOはセラロックを使用した。回路定数は波形を見ながら調整した。周波数はB-E、E-
アースとセラロック-アース間のコンデンサーで調整できる。コールドスタートから安定するまで発振周波数は約400Hz上昇する。スイッチON直後は低めのトーンで聞く必要があるが、数分で安定する。
ここまでの状態で、シャーシーには真空管設置スペースが残り1本となってしまった。ヒーター用トランスの余裕は残り0.4A程度、B電源の方は150V20mA程度である。送信アンプを組み込むとなると電源容量の関係から出力管の6AQ5クラスの採用はちょっと無理で、6BA6あたりで数百mW程度となってしまう。ちょっと中途半端なので、送信アンプは外付けとして受信AFを真空管で構成することにした。
AFアンプ用でも定番の6BM8では電源容量が不足するので、12AT7を使用して片ユニットを電圧増幅、もう一つのユニットを出力管にして100mW程度の出力を狙うことにした。12AU7の方が出力管としては有利であるが、電圧増幅のゲインが不足してしまう。
計測すると8オーム負荷で無歪み出力約30mW、最大で120mWとなった。この程度の出力でもヘッドフォーンを使えば十分過ぎるほどである。周波数特性はピークが500Hzで-6dBが40Hz-5kHzのカマボコ型となったのでCW用として最適である。
電源はB電源用の100V:120V、10VAのトランスと100V:12V、1.2Aのトランスを使用した。B電源はAC120Vを全波整流した後、MOS-FETによるリップルフィルターを経由して150Vが得られた。SG用としてツェナーで95Vに安定化した。
12Vの方はやはり全波整流した後、低損失レギュレーターでDC12Vを作っている。
6BZ6と12AT7のヒーターはシリーズに接続してDC12Vで点灯し、IF段の6BA6もシリーズにしてこちらはAC12Vで点灯している。AF段の12AT7はAC12Vで点灯している。
トランシーバーというのも大げさであるが、一応の形が出来上がった。でもよく考えると10mWCWエキサイター付きの真空管式高一中二受信機を作ったようなものである。エキサイターの方はトランシープ操作用DDSVFOそのままであるので、調整は受信部だけである。
本機のVFOはむき出しのままであるが、電源ラインにはフェライトコアを挿入し、LCDやロータリーエンコーダーへの配線はシャーシーに密着させるようにしたので、ノイズやスプリアスは一応のレベルには達していると思う。IFが455kHzとDDSの発振周波数よりもかなり低いのがスプリアスにも有利に働いているようである。
受信音が小さいのと、BFOがAF段に入り込んで歪んでいたので、LPFとプリアンプを検波と12AT7の間に挿入した。これで受信音の歪みは解消された。
AGCレベルの調整はマイナス電源を作っていないので、AGCアンプとの結合コンデンサーで行った。弱い信号を受信する場合、AGCラインをアースした方がフィーリングが良いので、AGC-OFFスイッチをつけようかと思っている。
受信部の調整もだいたい済んだので、ケースに入れて様子を見た。電源投入後数時間もするとケース全体がかなり暖かくなる。真空管のヒーターだけでも9.45W、その他も含めると15Wほどの発熱量となる。その状態でダイアルを廻すとワンステップ毎にノイズが発生してしまった。ケースから出してDDSチップに息を吹きかけるとその症状は解消された。どうやら、真空管からの発熱がDDSチップに悪影響を与えているようである。
いまさら、DDS基板を熱の影響を受けない場所へ移動するのもできないので、ファンによる冷却を実施した。ファンはPCのCPUクーラーに付いていた12V0.08AのものをDDSチップに覆い被せるように配置した。当初、普通にDC12Vを供給したら、ノイズが受信部に回り込んでしまい、弱い信号の受信に支障があった。試行錯誤の末、FAN専用の整流回路とリップルフィルターを作り、FAN直近に配置した。これでFANへの電源ラインはDC12V電源と分離できた。念のために電源ラインは適当なフェライトコアに巻き込んだ。それにしても単なる真空管受信部にクーリングファンが必要になるとは思わなかった。ケースに入れずにシャーシーと前面パネルだけの大昔の無線機スタイルであれば、このようなクーリングファンは不要なのだが・・・
前述したように送信アンプはケース内に組み込むのはあきらめたので外付けとする。今回は真空管がテーマなので送信アンプも真空管としたい。スクラッチで組むのも面倒になったので、807を使ったCW送信機を流用することにした。試しに、本機のDDSAMPの出力10mWを807のグリッドのステップアップ用トランスに入力してみた。この状態では7MHzで1W、10MHzでは0.5Wしか出力されなかった。QRPの5Wを目指すとなると軽く数dB、増幅する必要がある。このアンプは本機ではなく、807送信機に内蔵してリレーで切り替えるようにすると、本来の送信機と外付けアンプの機能とスイッチ一つで切り替えることができる。スタンバイ回路は本機から807送信機のキーイング回路に接続すればOKとなる。
2SK125をソース接地で使ったアンプを作った。10mW入力で100mWとなり、これで807をドライブすると7MHzでも10MHzでも5Wのパワーとなった。
今回使用したDDSVFOでは送信時に直接送信周波数を発振するようになっているが、ソフト的には局発周波数からIF分を差し引く計算をさせている。IFの決定方法であるが、最初にフィルターの特性からBFO周波数を決定して、好みのトーン分を差し引いたものをIFとした。例えば、7010kHzのCWを受信する場合、フィルターの特性からBFOを455kHzにして、好みのトーンを700Hzとすると
IF=455-0.7=454.3KHz
局発=7010+454.3=7454.3KHz
となる。受信機の周波数表示はCWキャリア位置なので、7010kHzの信号を700Hzのトーンで聞ければ、受信機表示も7010kHzとなるはずである。その状態で送信にすると7010kHzが発振するので、相手局送信周波数にゼロインすることが可能となる。
ようやく、トランシーバーとしてまとめる段階に来た。本機はCW専用なのでコントロール回路もシンプルである。セミブレークイン、サイドトーン、送受信切り替えだけである。サイドトーンはNE555を使用した。キーイングはDDSVFOアンプの2SC1906の電源をON-OFFしているだけであるが、5W外付けリニア・アンプをつけても通り抜けはない。送信時には念のため、RFアンプ6ZB6のカソード抵抗を大きくしてカットオフ状態にして保護している。
TS-530Sと聞き比べてみるとやはり全体的にゲイン不足である。MIXに3極管を使用したこととリング検波の採用がロスの原因となっているようである。AFでもう1段増幅というのもあり得るが、別の検波方式を試してみた。ジャンク箱を探すとバラモジ用ICのSN16913Pが出てきたので、これで検波回路を作った。これに変えたら、全体的なゲインバランスも良くなり、受信フィーリングもかなり改善された。
807を使ったCW送信機を外付けリニア・アンプにしてオペレーションしてみた。相手局CWを700Hzのトーンで聞ければ、相手局にゼロインできる。ピッチを変えたい場合は、一度700Hzのトーンにした後、RIT-ONとすれば、送信周波数を変えずに受信周波数を微調整できる。スプリット運用では先に送信したい周波数でRIT-ONとすればOKである。
リニア・アンプは外付けであるが、基本的にはトランシーバーなので、送受信機セパレートのようなキャリプレーション操作が不要なので至極快適である。受信能力は最新機器と比較するのは酷であるが、20年物のTS-530Sとは良い勝負である。DDSを局発に使った場合、スプリアスの問題が付きまとうが、今回は発振周波数に比べて、IFが455kHzと非常に低いのでIFに落ち込むスプリアスはほとんど感じられない。このテストはアンテナ入力をショートしてダイアルを廻しただけであるが、ノイズ成分が変わるポイントがいくつかあるが、ビートになるはほどの顕著なものはなかった。
バンドチェンジはDDSVFOを50KHzステップで目的バンドとし、DDSVFOアンプBPFの切り替え、受信トップの6BZ6のアンテナとプレートチューンの調整という手順となる。もちろん、送信アンプのチューンも必要である。
使い込んでいくとやはりSメーターが欲しくなった。Mコネクターを外した跡にSメーターを設置した。ANT入力はBNCコネクターに変えて反対側に設置した。SメーターはIFアンプのカソード電位変化で振らせている。
ところが、あまりメーターが振れない。原因を追及した結果、BFO出力がIF段に漏れ込んでおり、それを増幅してAGCに使っていたことが判明した。BFOの漏れ分がAGCのベースになっていたことになる。AGCアンプの取り出しを1stIFのプレート側に変えたらメーターも振れるようになった。当然のことながら、AGCも良く効くようになった。しかし、フルゲインにすると歪んでしまうのでAGC回路を見直した。各定数は実際のCWを聴きながら調整したが、まだまだ改善の余地はありそうである。
さるOMはCWを聞く場合、AGCをOFFにし、RFゲインを絞り、AFゲインで音量を調整するという昔ながらの方法を今でも使っているとのこと。この方法の方が弱い信号を聞く場合、了解度が上がるらしい。
早速、AGCをON/OFFする回路を追加した。回路は簡単でAGCラインをトグルスイッチでアースに落とせば、AGCがOFFとなる。